0
¥0

現在カート内に商品はございません。

詳細検索ページへ

シリーズ【看護の知】・05

「わざ」を伝える

  • 川名るり 著
  • A5 128ページ (判型/ページ数)
  • 2020年07月発行
  • 978-4-8180-2269-0
本体価格(税抜): ¥2,000
定価(税込): ¥2,200
在庫: 有り
数量:
カートに追加しました。
カートへ進む

現場で培われた看護の「わざ」は、雑談の場で伝わる!?

臨床の場では、学校で教えられた「看護技術」とは異なる、現場で培われた巧みな「わざ」が存在する。しかしそれは、組織の正式な伝達の場(カンファレンスなど)では、あえて伝えるほどのことではないとみなされている。では、そのような「わざ」はどのような場で、どのように他者に伝わっていくのだろうか。本書は知性と感性あふれた病棟のエスノグラフィーである。日常の中に埋め込まれた看護の知の発見と、その伝達方法を追うユニークな探究が始まる!


Ⅰ プロローグ―「わざ」の伝達プロセスを追う
Ⅱ 病棟の概要
Ⅲ 日常的実践の中の「わざ」
Ⅳ 小児病棟の看護師文化と看護実践
Ⅴ 「 わざ」を伝達する過程
Ⅵ 伝達の場としての雑談
Ⅶ 「わざ」の社会的学習
Appendix[付記]
Ⅰ 組織文化への接近
Ⅱ 具体的な研究方法


◉「わざ」の伝達の探求
小児病棟で研修中の出来事だった。その日、私は双子の乳児を受け持つことになった。その双児は同じ疾患、同じ状況で入院しており、私はその2人に同じ看護技術を用いてケアをした。それは私がそのときに思いついたやり方だったが、自分なりに良い方法だと思ったので、その日の担当看護師の了解を得て行ったのだった。その後、双児の一方にはその方法が継続して用いられるようになったのだが、もう一方にはすぐに用いられなくなってしまったのである。
私は、その方法が一方で途絶してしまったわけを、「こっちの子には合わなかったのかな?」と考えた。しかし、どうもそうではないようだった。「やりにくかったかな?」と、今度はやり方に理由があったのかもと考えた。なぜなら、その方法は自身の身体感覚やちょっとしたコツが必要だったので、見ただけではやりにくいのかもしれないと思ったのである。いや、それも違うようだ。よくわからなかった。その方法はなぜ一方では継続され、もう一方では継続されなかったのだろうか。
数日後、途絶えたほうの乳児は、私が了解を得た看護師とは別の看護師が担当していたことを知った。双児はガラスの壁で隔てられた別の病室にいたために、担当が違ったのだ。改めて、「病室が違ったから?」「担当が違ったから?」と考えたが、「余計なことだと思われてしまったかも」という気持ちもわいてきた。
さらに1週間ほど経つと、継続されていたほうの乳児には、少しやり方が変化しながらその方法が引き継がれていることがわかった。しかも、別の看護師がその方法について、「いつから誰が始めたのかは知らないが、このやり方はとても良い」と申し送っていた。
このとき私の中に、看護という協働実践の場において看護技術が伝わる、あるいは伝わらないということには、どのような要因が関係するのだろうか、という新たな関心が芽生えたのである。

◉本書の目指すもの
本書は、小児病棟における日常的な看護実践のエスノグラフィーである。私は小児病棟でフィールドワークを行い、看護師たちが身体も小さく虚弱で、言葉によるコミュニケーションも難しい子ども相手に、なんとか苦痛を与えることなくケアをしようと工夫を凝らしている様子をつぶさに観察していった。そこで生み出された巧みな技術は「わざ」と呼ばれていたが、それがどのようにして伝達されていくのかが私の関心事であった。やがて、そこには小児病棟ならではの独特の伝達様式があり、組織文化がからんでいることが見えてきたのである。
ここで「わざ」とカッコつきで表現したのには理由がある。それは、あくまでも看護師が実践の場で「わざ」と呼んでいたからであり、大学や専門学校で教えられる「看護技術」とは異なる性質のものであった。「わざ」の中には、細かな動作や身体の使い方のほかに、情報としての身体感覚や音声表現、時には看護師の情緒や構え、人間関係といったものまでが含まれている。それは、臨床現場で働く看護師にとってはあまりに日常的で、当たり前の出来事のようにみえるかもしれない。しかし、当たり前であればあるほど、日常の中では見過ごされてしまうものである。
本書は、看護師たちが日々何気なく行っていることを、研究者の目で見て、その意味について考えた成果をまとめたものである。日常的な出来事の意味や価値に気づくことは、個々の看護師のみならず、組織全体の発展にとっても重要な意味があるだろう。
そこで、小児看護に従事する方々だけでなく、他の領域の看護や技術教育などに関心のある多くの方々へ、この知見をぜひ伝えたいという思いから、この研究成果を本にして世に問うことにした。より良い看護の日々の積み重ねが、看護の質向上につながり、ケアを必要とする人々のwell-beingに少しでも寄与することができれば幸いである。

◉本書の構成
第Ⅰ章では、本書で注目する小児病棟における「わざ」について確認し、研究の問いを定める。
第Ⅱ章では、フィールドとなった小児病棟の概要を紹介する。ここでは小児病棟の勤務体制、構造上の特徴や道具の使用についても簡単に説明する。小児病棟での看護実践を理解するうえで、病棟環境は重要だと考えるからである。
第Ⅲ章では、小児病棟の看護師が日常的実践の中で「わざ」とみなしているものは何かについて、彼女/彼らの語りと観察を通して検討する。「どのように伝達できるのか」という問いは、何を伝達するのかという議論のうえではじめて成り立つからである。
第Ⅳ章では、小児病棟の看護師文化について論じていく。それぞれの病棟には独自の看護師文化というべきものがある。その中には、例えば先輩‒後輩の関係性といったものや、一人前の看護師として成長する過程でみられる行動パターンや考え方などについての様々な暗黙のルールなどがある。小児病棟では、看護の対象が子どもであることによる看護実践の特徴や、病棟内の社会関係の特徴があるので、それらを踏まえて記述していく。通常、看護技術について議論する場合は、病棟内の社会関係とは切り離して考えられがちであるが、次の第Ⅴ章で論じる「わざ」の伝達という看護師間の相互行為を理解するうえでは、重要な前提となるものである。
第Ⅴ章では、病棟で「わざ」がいかにして伝達されているか、そのユニークな様相が描かれる。
第Ⅵ章では、小児病棟における「わざ」の伝達と社会的相互行為について考察する。
そして、終章の第Ⅶ章では、それまでの議論を総括し、「わざ」とは何かと「わざ」の伝達過程についての総論を提示する。

2020年6月 川名るり

カテゴリ一覧

ページトップへ

この商品のレビュー ★★★★☆ (1)

  • 2020/10/22 読者ハガキ(Hさん) さん ★★★★☆

    雑談で伝わるわざのヒントはあると思うけれど、誰もそこに注目しなかった。

    「わざ」に注目されたことに共感しました。これからの課題・展望として、申し送りやカンファレンスを再編成していく必要にも共感しました。

レビューを投稿