- 枝広あや子 編
- B5 192ページ (判型/ページ数)
- 2022年05月発行
- 978-4-8180-2415-1
本体価格(税抜): ¥2,900
観察とアセスメントを重視して、楽しく、心地よく、安全な食事を。
認知症の人が楽しく心地よく安全に食事ができるためには、疾病の進行による機能低下を踏まえた「食」のケアが必要です。
本書では、観察とアセスメントを重視して、「食」を支えるケアの考え方から、接触嚥下機能の基礎知識、栄養ケア、口腔ケアまで、Q&A形式でわかりやすく解説します。原因疾患別のケアのポイントや日常的な困りごとへの対応もご紹介。すべてのケア提供者に読んでほしい一冊です。
Part1 認知症の人の「食」を支えるケアの考え方
①認知症の人の「食」を支えるケアは、何のために行うのですか?
②認知症の人の「食」を支えるケアを行ううえで、大切なことは何ですか?
③認知症の人の「食」を支えるケアには、どのような視点が必要ですか?
④病院、施設、在宅で、認知症の人の「食」を支えるケアの内容や方法は変わりますか?
⑤認知症の人の「食」を支えるケアにかかわる専門職の、それぞれの役割は何ですか?
⑥認知症の人の「食」を支えるケアを行ううえで、家族の役割は何ですか?
⑦認知症の人のACPと「食」を支えるケアは、どのように関係するのですか?
◆看護の視点:看護師がケアを提供する際の基盤となる考え方
Part2 認知症の人の「食」に関する機能
⑧主に加齢によって、「食」に関する機能や組織はどのように変化しますか?
⑨認知症の人は、「食」に関してどのような障害があるのですか?
⑩認知症の人の摂食機能、嚥下機能はどんな状態にあるのですか?
⑪認知症の人の知覚(嗅覚・味覚・口腔咽頭感覚)はどんな状態にあるのですか?
◆看護の視点:摂食嚥下機能の変化を把握しアセスメントへつなぐ
Part3 認知症の人の「食」を支えるケアの基本
⑫認知症の人の「食」を支えるケアには、どのような準備が必要ですか?
⑬認知症の人へ行う「配膳前のケア」の基本を教えてください
⑭認知症の人へ行う「配膳後のケア」の基本を教えてください
⑮認知症の人の「食」を支えるケアでは、どのような多職種連携ができますか?
◆看護の視点:認知症の人の「食」を支えるケアとは
Part4 認知症の人の「食」を支える栄養ケア
⑯認知症の人の栄養状態に関する評価や対策について、知っておくべきことは何ですか?
⑰認知症の人に必要なエネルギー量はどのくらいですか?
⑱認知症の人の栄養バランスが崩れたときに工夫できることはありますか?
⑲認知症の人が家族と同じものを食べられるような簡単な工夫はありますか?
⑳スーパーやコンビニの惣菜、介護食などを上手に活用するポイントはありますか?
◆看護の視点:認知症の人への栄養ケアは多職種協働で
Part5 認知症の人の「食」を支える口腔ケア
㉑認知症の人への「機能的口腔ケア」とは、どのようなことをするのですか?
㉒認知症の人への日常的な「器質的口腔ケア」は、何のために、どんなことをするのですか?
㉓認知症の人の義歯の使用について、気をつけることは何ですか?
㉔認知症の人の口腔環境の特徴は何ですか?
㉕認知症の人の口腔ケアに歯科専門職が加わると、どんなメリットがありますか?
◆看護の視点:口腔ケアがもつ多様な意義
Part6 認知症の人の「食」を支えるケアの応用
㉖認知症の原因疾患によって、「食」に関する困りごとはどのように異なるのですか?
㉗アルツハイマー型認知症の人の「食」に関する困りごとは何ですか?
㉘アルツハイマー型認知症の人の「食」を支えるケアのポイントは何ですか?
㉙レビー小体型認知症の人の「食」に関する困りごとは何ですか?
㉚レビー小体型認知症の人の「食」を支えるケアのポイントは何ですか?
㉛前頭側頭型認知症の人の「食」に関する困りごとは何ですか?
㉜前頭側頭型認知症の人の「食」を支えるケアのポイントは何ですか?
㉝血管性認知症の人の「食」に関する困りごとは何ですか?
㉞血管性認知症の人の「食」を支えるケアのポイントは何ですか?
㉟最重度/終末期の認知症の人の「食」を支えるケアはどのように行うのですか?
◆看護の視点:認知症の人の「食」を支えるケアにおける段階的な視点
Part7 認知症の人の「食」に関する相談事例
㊱なかなか食べ始めないときにはどうしたらいいですか?
㊲口に入れたものを出してしまうときはどうしたらいいでしょう?
㊳食事に集中できない場合はどうしたらいいですか?
㊴食事中に眠ってしまう場合はどうしたらいいですか?
㊵いつも食事量が少ない人にはどんな支援ができますか?
㊶食べたり食べなかったりとムラがあっても心配はないですか?
㊷ある日、急に食べなくなったときにはどんな原因が考えられますか?
㊸食事をしたのに「食べていない」と言うときはどうしたらいいですか?
㊹認知症の人の服薬支援はどのように行えばいいですか?
◆看護の視点:認知症の人の「食」にまつわる日常的な困りごとへの対応
column1 認知症の人の「食」の支援に関する診療報酬・介護報酬
column2 認知症の人の「食」を応援する簡単レシピ
column3 認知症看護認定看護師について知ろう!
【はじめに】
本書は、認知症の人の「食」を支援するために、どんな場面で、どんな工夫ができるかを提案するものです。すべての認知症の人に必ず効果があるような魔法の方法は、残念ながらありませんが、たくさんのケースから得た工夫の引き出しを、皆さんにももっていただきたいと思っています。
認知症の人の「食」を支えるケアは多岐にわたりますが、時系列で考えると、「食」に関する課題のアセスメント、食事を始める直前の「配膳前のケア」、食事が始まってからの「配膳後のケア」、そして食事時間外に行う「口腔ケア」などに整理できます。
たとえば、状況に応じた食事環境への配慮の方法、全身状態の観察のポイント、食べるための姿勢とポジショニングの工夫、食卓の工夫などが「配膳前のケア」です。また、食卓周りの環境の調整、安全に食べて飲み込む様子を確認するポイント、飲み込んだ後の呼吸状態の確認、誤嚥性肺炎にならないような食事介助方法の工夫などは「配膳後のケア」として提案します。これらすべてに、観察とアセスメントが必要です。そのほか、栄養摂取の基本知識、食事形態の調整、呼吸状熊の観察、口腔ケアも欠かせませんから、その考え方と方法も解説します。これらを合わせて、本書では、認知症の人の「食」を支えるケアと呼びます。本書を含め、さまざまな書籍や雑誌などで認知症の人の食事に関するケアが解説されてぃます。これらの情報をうまく現場に取り入れ、工夫をすることで、認知症の人が最期まで経口摂取できるように支援することができます。
認知症の人の「食」を支えるケアにおいては、たくさんの工夫ができる一方で、認知症や加齢変化は、静かに進行するものです。嚥下機能や消化機能等の身体機能が維持できていれば、食べることは元気の源になりますが、認知症や加齢変化の進行により食べられなくなる時期においては、「全量食べてもらわなくては」という考えは、肺炎を引き起こしかねない諸刃の剣ともなります。認知症の人がもつ食べる機能の範囲を超えた食事をさせてしまい、本人を苦しめてしまうケースも残念ながら経験します。認知症の人が穏やかで幸せに過ごすためには、私たち医療やケアの提供者には知識と工夫が求められるのです。
認知症の経過を「旅路」と表現することがありますが、私たちはその旅路の伴走者です。認知症の人に、心地よい生活や楽しい食事を続けていただけるように、ゆっくり進行する機能低下を見っめ、目の前にいる認知症の人にとって心地よいと思われるケアを提供していきたいものです。
本書が、皆さんが明日から行う認知症ケアの一助となれば幸いです。
2022年5月 枝広あや子