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シリーズ【看護の知】

いかにして患者の「気持ちいい」は生まれるのか

  • 島田多佳子 著
  • A5 232ページ (判型/ページ数)
  • 2017年10月発行
  • 978-4-8180-2062-7
本体価格(税抜): ¥2,800
定価(税込): ¥3,080
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「気持ちいい」体験を現象学的視点から掘り下げる

患者の「気持ちいい」体験は明確に説明することができないもので、それゆえ看護師はその体験を漠然と了解し、これまで患者の視点で探求されてきませんでした。ケアの場における患者の「気持ちいい」体験を、患者の語りを通して本人の視点でとらえ直すことで、病いを生きている患者にとって、「気持ちいい」とはどのような意味をもつものかの理解を深め、今後の「気持ちいい」ケアのあり方を考えます。


Ⅰ プロローグ――患者の「気持ちいい」体験を探るために

Ⅱ 患者の語り

Ⅲ 患者の語りからみえてきたこと

Appendix[付記]
Ⅰ 文献の探求
Ⅱ 方法論の探求
Ⅲ 研究の具体的な方法


はじめに

鍵のかかったデスクの中にしまわれていた博士論文のデータを読み返したとき、まるで、つい最近のことのように、あのとき、研究にご協力いただいた患者の皆様との対話の感触がよみがえる体験をしたのがうれしかった。その感覚を大切にしながら、患者の所作やその場の雰囲気を感じながら、論文の記述を進めた。博士論文の完成が近づいたとき、擦り切れたメルロ=ポンティの書籍のページの一部が、ポロリとデスクの下に落ちてしまうのに気づきながらも、記述をし続けた。
現象学的研究を初めて手がけて感じたことは、先の見えない闇に入りながらも、現象学という方法論に取り組むことを決意した際に感じた覚悟と、ある種の切なさが交叉する中で、それでもなお自身のテーマに関する「現象の探求」という熱い思いの灯を胸に抱きながら、記述をし続ける以外に光を見ることはないということだ。
本書の元となった論文は、2015年3月に聖路加国際看護大学に提出した博士論文であり、書籍化にあたって一部、加筆・修正等を行った。博士論文を提出するまでに長い年月を要してしまった。決して順調とは言えない博士論文提出までの道のりについて、編集部より「博士論文作成までどのように進めたらよいか困っている人が意外に多いようだ。無理でなければ、ご自身の提出までのスケジュールを示していただきたい」との要請があった。現象学的手法を手がかりに博士論文に取りかかっているけれども、思うように進まないという方々に対して、本書をお読みいただいたことで少しでも安心感につながるのならば、と思い、ここで自身の論文提出までの経過について触れてみたいと思う。
論文の主テーマについては、博士後期課程入学前後に「気持ちいい」の探求ということに決め、その後テーマ自体に変わりはなかったが、問いの立て方には変化が生まれた。それは、入学後1年目であった。当初は生理的指標を用いて「気持ちいい」をとらえ、気持ちいいケアを提供した際のケアの検証を試みようとしていた。1年目は、「概念分析」や「研究方法」の課題を通して、自身の関心のあるテーマの主要概念がどういったものであるのか、自身の探求したいテーマは、どのような研究手法によって明らかにされうるのか、といったことを追及していく時期でもあった。
入学1年目は、入学前に組み立てた自身の探求方法をみつめ直す重要な時期にあたる。順調にいけば、1年目の後期までにはテーマと研究手法が決まり、1年目後半から2年目にはプレテストやフィールドワークを行い(その成果を論文にまとめるなどの人も多い)、その成果を踏まえ、2年目に研究計画書および倫理審査を受け、審査が通った後、2年目の途中や3年目の前期に本研究のデータ収集(収集にどれだけ期間を要するかは、研究手法やデータ収集先の状況による)・分析等に取りかかり、その後、博士論文審査・最終試験の合否を受ける、といったところであろう(個々の大学や研究手法等によりスケジュールは異なるため、参考程度にとどめていただきたい)。
しかしながら、自身の場合、「概念化」のところで立ち往生したことに加え、在学中の出産もあり、日常生活に没頭した日々から「思考を重ねていく探求姿勢」への移行がスムーズにはいかなかったように思う。出産後、概念分析の再挑戦、類似概念の文献的検討、質的研究方法の再検討、現象学の勉強、本研究での哲学的手がかりとなるメルロ=ポンティの著作の熟読等々に2年を要した。その後、フィールドワークを行い、2か月後に研究計画書の提出、審査での承認、大学院・データ収集先の倫理審査の申請・承認が下りた後、翌月からデータ収集を行った。データ収集期間には8か月半を要した。その後、大学教員の職に就き、まとまった記述(分析にあたる)の期間がとれたのは、就職後、しばらく経った後となった。記述期間には半年近くを要した。このような経過は例外といってもよいだろう。今でも、本研究の考察(本書では「Ⅲ 患者の語りからみえてきたこと」)の着地点など、気になるところもあるが、私の現在の力量の限界である。
書籍化にあたっては、博士論文を研究者でない一般の看護職が読みやすいように、平易な記述やイラスト等を多用して単行本として出版したい、との旨を出版社の担当編集者より伺った。イラストによって、一部、因果関係のような解釈になってしまわないか危惧した点もあったが、読み手のわかりやすさという趣旨を優先した次第である。これを機に、様々な博士論文が臨床の看護師の方々に読まれるきっかけになればと思う。

2017年8月 島田 多佳子

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