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格差時代の医療と社会的処方

病院の入り口に立てない人々を支えるSDH(健康の社会的決定要因)の視点

  • 武田裕子 編
  • B5 236ページ (判型/ページ数)
  • 2021年04月発行
  • 978-4-8180-2330‐7
本体価格(税抜): ¥3,200
定価(税込): ¥3,520
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健康格差をもたらす「健康の社会的決定要因(SDH)」に着目した医療と社会的処方について,具体的な実践例を通して学べます!

本書は,社会の変化に伴って顕在化してきたSDHとは何か,それがどのように私たちの健康に影響するのか,SDHの視点で患者さんや地域を見ると何がわかるのかを概説します。また,患者さんの困難に気づくことで,病気の「原因の原因」になっている社会的要因・課題等を見出して支援を行う医療者の実践と,そのような課題に対応する取り組みの1つとして注目される「社会的処方」の可能性についても紹介します。医療者・学生や地域で活動する方々にお読みいただきたい一冊です。


イントロダクション 
今,日本で広がっている健康格差──患者さんと接してわかること・学んだこと
 1.ある事例から
 2.患者の抱える困難に気づくことで,病気の「原因の原因」を知る

第1章 健康格差をもたらす「健康の社会的決定要因(SDH)」
1 健康と格差
 1.「健康」に欠かせない3つの要素とは
 2.社会的な要素とポジティブヘルス
 3.健康の前提条件とは
 4.健康格差と健康の公平性(equity)
2 健康の社会的決定要因と医療者の役割                    
 1.健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)
 2.SDHと新型コロナウイルス感染症パンデミック
 3.ヘルス・アドボケイトとしての医療者の役割
 4.SDHに取り組める医療者の育成
 5.おわりに

第2章 日本における健康格差の現状と課題
日本老年学的評価研究等から見る健康格差の現状と課題 
 1.日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)とは
 2.健康格差とは何か
 3.なぜ,健康格差が生じるのか
 4.健康格差対策に向けた国内外の動き
 5.おわりに

第3章 健康格差に対する社会的処方の可能性と学会・団体の活動
1 健康格差に対する社会的処方の可能性 
 1.社会的処方という概念
 2.社会的処方の定義と事例
 3.社会的処方の実際
 4.日本版社会的処方の現状
 5.地域資源へのつなぎ方
 6.社会的処方の視点をもつには
2 健康格差に対する学会・団体の活動
A 一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会の活動 
 1.はじめに
 2.三重宣言2018
 3.三重宣言に至る経過
 4.わが国におけるプライマリ・ヘルスケア,プライマリ・ケア
 5.格差とは何か
 6.格差対応のパラダイムシフト
 7.SDGsムーブメント
 8.医療は社会の部分である
 9.まとめ
B 子どもの貧困への小児科医などの取り組み──「貧困と子どもの健康研究会」を中心に
 1.はじめに
 2.2010年日本外来小児科学会でのワークショップ
 3.調査・研究活動
 4.貧困と子どもの健康研究会
 5.小児科関連雑誌での特集など
 6.まとめ
C 一般社団法人宇都宮市医師会「社会支援部」の活動──プライマリ・ケアの理論と実践
 1.「社会支援部」設立の経緯
 2.「社会支援部」の活動理念
 3.「社会支援部」の活動方針
 4.「社会支援部」による「社会的処方」の定義
 5.基礎的調査の実施
 6.「社会支援部」の活動
 7.おわりに
D 日本HPHネットワークの活動 The activities of the Japan Network of Health Promoting Hospitals & Health Services(J-HPH)
 1.はじめに
 2.カンファレンスなどの企画を通したSDHに関する啓発・教育活動
 3.「医療・介護スタッフのための経済的支援ツール」の開発と普及
 4.まとめ

第4章 SDHの視点を取り入れた医療・地域活動の実践
1 【地域から学び,住民と協働した健康づくり】(公益社団法人福岡医療団千鳥橋病院)
  病院が取り組む地域住民の健康増進──地域調査・交流活動を通して
 1.千鳥橋病院の紹介
 2.活動に取り組む背景
 3.活動の紹介
2 【多職種による患者情報の収集・共有と支援の工夫】(医療生協さいたま生活協同組合埼玉協同病院)
  患者基本情報にSDH項目を取り入れた診療とヘルスプロモーション
 1.はじめに
 2.埼玉協同病院の概要
 3.活動に取り組むきっかけ・背景
 4.実践活動内容の紹介
 5.患者と地域をつなげるための連携としくみづくり
 6.社会的処方に必要なポイント
 7.今後の展望
3 【患者の社会的困難に気づき,支援するためのツール】(Team SAIL)
  診療における社会的バイタルサイン(SVS)の活用
 1.Team SAILの活動
 2.活動の背景
 3.社会的バイタルサインとは何か
 4.SVSを活用して困難な課題に立ち向かうための多職種協働
 5.SVSを活用して地域全体の健康を守るしくみ
 6.これだけは理解してほしいポイント
 7.今後の展望
4 【子どもの貧困支援】(健和会病院)
  医療機関が行う子どもの貧困支援
 1.健和会病院の紹介
 2.私はなぜ子どもの貧困に取り組むようになったのか
 3.どうすれば貧困は見えるようになるか
 4.医療機関には何ができるか
 5.まとめ
5 【性の多様性への配慮】(川崎協同病院・亀田ファミリークリニック館山)
  LGBTQsの人々が安心して医療を受けるために医療従事者が学ぶべきこと
 1.医療従事者として多様な性についての知識をもつ
 2.SDHとしてのLGBTQs
 3.実際に生じている健康格差
 4.あらゆるセクシュアリティの人が安心して受診できるために配慮すべきこと
 5.クリニックでの取り組み事例の紹介
 6.おわりに
6 【独居高齢者への支援と見守り】(ポーラのクリニック)
  簡易宿泊所に住む独居高齢者の訪問診療と看取り医療
 1.診療所の情報
 2.活動に取り組むきっかけ
 3.仲間との連携と街創り
 4.特に伝えたいポイント
 5.まとめと今後の展望
7 【住民主体の活動と医療的・専門的活動の相乗効果】(一般社団法人Neighborhood Care)
  「通いの場」や「生活支援コーディネーター」の機能を活かした地域での看護実践
 1.はじめに
 2.地域包括ケアにおける「土」と「葉っぱ」
 3.デイサービスではない「通いの場」
 4.「土」を耕す生活支援コーディネーター
 5.「訪問看護」と「通いの場」を組み合わせた実践の一例
 6.専門職が住民主体の場を設置する自己矛盾
 7.訪問看護ステーションと住民中心に運営される「通いの場」の関係
 8.「通いの場」等の住民活動を活かしたケースマネジメント
 9.「通いの場」等の住民活動の持続性
8 【在日外国人への診療支援】(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所・特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会)
  コミュニティとともに進む外国人への診療と支援
 1.診療所と団体の情報
 2.問題の背景
 3.支援活動の経緯
 4.課題解決のネットワーク
 5.解決の鍵を握っていたのは
 6.新たな課題と今後の国際社会の要請
9 【薬物依存症の本人・家族への支援】(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
  薬物依存症から回復しやすい社会づくり・地域づくり
 1.はじめに
 2.ハームリダクションの理念と実際
 3.海外におけるハームリダクション政策とその成果
 4.わが国におけるハームリダクション実践の可能性
 5.おわりに
10 【子どもたちが健やかに育まれる地域づくり】(金子小児科/かねこキッズクラブ)
  地域の絆をつくる「みんにゃ食堂」の試み
 1.「子ども」と「食」を中心にした地域みんなの居場所
 2.活動に取り組むきっかけ
 3.「みんにゃ食堂」の活動内容
 4.こども食堂を核とした「地域の絆」と継続のしくみづくり
 5.「食」を切り口に支援内容を広げていく
 6.今後の展望
 7.子どもたちを地域で総合的に支える
11 【被災者・高齢者への支援】(石巻市雄勝歯科診療所)
  口を通じて地域を診る歯科──過疎地域の現在は将来日本の縮図
 1.はじめに
 2.大規模災害時の歯科の役割
 3.東日本大震災での歯科支援活動
 4.東日本大震災後の地域住民を多職種チームで守る
 5.地域医療の中で目の当たりにした現実から
 6.東日本大震災での教訓を台風19号後の被災地支援で活かす
 7.おわりに
12 【路上生活者・生活困窮者への支援】(多団体合同プロジェクト〔NPO法人「TENOHASI」他〕)
  医療者がかかわるアウトリーチ──路上生活者・生活困窮者への支援 
 1.路上生活者や生活困窮者への支援:NPO法人「TENOHASI(てのはし)」
 2. 路上生活者が生まれる背景に潜む健康の社会的決定要因(SDH)
 3.コロナ禍の影響(2020年~)
 4.TENOHASIの活動
 5.他団体との連携
 6.なぜ「助けて」が言えないのか
 7.SDHのレンズを通して見て気づいてほしい

資料 参考資料が閲覧できる主なウェブサイト


はじめに

イギリスの政治家に最も読まれた本として紹介される書籍に,“The Spirit Level”(R. Wilkinson and K. Pickett著,邦訳『平等社会』)があります。所得格差が大きい国ほど平均余命や乳児死亡率,肥満といった健康課題を抱えており,ティーンエイジャーの望まない妊娠や薬物依存,殺人や服役率などの社会問題が生じていることを,統計データを用いて示すものです。2009年発行のこの本の中で,日本は最も所得格差が少なく健康指標に優れ,社会的にも問題の少ない模範的な国だと紹介されています。
確かに,1990年代にアメリカに臨床留学していた編者は,BMI40以上の病的肥満カテゴリーの入院患者や薬物依存で繰り返し救急外来を受診する患者の存在に,日本であまり遭遇しないのはどうしてだろうと不思議に思ったものでした。“The Spirit Level”を読むと,1970年代に揶揄的に口にされることの多かった「一億総中流」や,実力主義を損なっていると表現されていた終身雇用制度による生活の安定が,社会にとって,また1人ひとりの健康に大きな役割を果たしていたのだと腑に落ちます。
しかし,グローバル化が進むとともに私たちの暮らしは大きく変化し,「ワーキング・プア」「下流社会」や「子どもの貧困」という言葉を目にするようになりました。最近は「上級国民」という表現から,社会の分断が生じているように思えることもあります。そして,そうした変化を最も身近に感じているのは,最前線で患者と接している医療者ではないでしょうか。「困った患者さん」と思っていた方の中に,健康保険料を払えない,医療費が心配で予約の日に受診できない事情を抱えた方たちがいることがわかってきました。病気の「原因の原因」に,失業や孤独・孤立があることも明らかになっています。2021年2月,世界で2番目となる「孤独・孤立対策担当大臣」もわが国で任命されました。
本書は,社会の変化に伴って顕在化してきた「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)」とは何か,それがどのように私たちの健康に影響しているのか,SDHの視点で患者さんや地域を見ると何がわかるのかを概説します。学会や団体として,またそれぞれの医療者が,目の前にいる患者さんの困難,そしてその原因になっているSDHを見出して,自分たちなりに取り組む姿をご覧ください。2011年の東日本大震災と原発事故から2020年のコロナ禍に至るまで,歴史の転換点といえる10年を私たちは歩んでいます。今も続くコロナ禍によって,失業や生活の困窮,住まいを失うことまでもが誰にでも起こり得ると認識されるようになりました。変化する社会に医療者がどのように取り組んだのか,本書はその貴重な記録ともいえます。医療者・学生や地域で活動する方々はもちろん,日本の政治家にも読んでいただけることを願って,ここに上梓します。

2021年3月
編者 武田 裕子

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